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終わり方で変わる、ダメだしとリクエスト

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最近実施している調査で、色々な方にインタビューをする機会があります。その中で、「こういうことが大事だよな」と思うメッセージがありました。「誰でも悪いところもあるが、良いところもある」というものです。これ、「誰でも良いところもあるが、悪いところもある」ではないところが、大事だと思っています。なぜ大事かというと、人を注意したり、人やものを評価するときに、メッセージの内容自体は同じでも伝える順番がちがうと、受け手の印象やその後の行動が異なると考えられるからです。

焦点が行動の仕方を左右する

そもそも日本語は結論が最後にくるので、最後の言葉が「いいたいこと」として相手に伝わります。なので、「悪いところもある」で終われば、それが「いいたいこと」として相手に伝わります。説教する場面なら、その後には「だから、~直さなければならい」というような義務や禁止のメッセージが続くでしょう。昨日電車で「あの人は優しいけど、仕事になるとズルいからなぁ」と誰かがいっていたのを耳にしました。なにがあったんだろうと気になりましたが、この後には「だから、ダメだ」とか、「ズルをすべきではない」などと続きそうです。いわゆる、ダメだしです。

一方で、「良いところもある」で終わると、肯定面を認める結論になります。その後には「だから、〜するとよい」というような、考えや行動を促進・リクエストするメッセージが続くでしょう。実際、冒頭のメッセージは「良いところもある。だから、いいところを伸ばしていきたい」と続きました。

義務/禁止なのか、促進/リクエストなのか。実はどっちに焦点を当てるかで、人の考え、行動や評価の仕方が変わることが研究から示されています。心理学者のヒギンズは、プロモーション(促進)焦点とプリベンション(禁止)焦点という2つの焦点に注目し、この違いを説明しています(制御焦点理論)。プロモーション焦点は、目指すものに近づくための積極的な考えや行動と結びつきます。反対に、プリベンションは「嫌なこと」の消極的な回避や萎縮と結びつきます。また、たとえば「今日はこれだけ仕事をする」という目標を立てた場合、評価の仕方は前者なら「どのくらい仕事ができたか」という点が中心となりますが、後者だと「どのくらいできなかったか」という点を中心に振り返ります。

以前、俳優の勝村政信フットブレインという番組で「ダメだししかしない演出家のもとでは、俳優は失敗しないように委縮していく。リクエストをする演出家のもとでは、俳優は意気に感じて頑張る」といっていました。ダメだしは、逆説的に行動の失敗可能性を高める場合があります。もちろん、それを乗り越えることで精神的に成長するということもあるでしょう。しかし、そうならなかったらどうするのか。

心理療法の一つである解決志向アプローチには、「上手くいかなければなんでもいいから違うことをしろ」という原則があります。ダメだしが上手くいかないなら、もっとダメだしではなく、リクエストしてみるといいのではないでしょうか。

プロモーション/プリベンションという考えは、発達障がいの支援者でもある自分のスタンスにも影響しています。認知特性上、こちらが思っている以上にネガティブメッセージが強く伝わってしまうことがあります。たとえば、「頑張ってるけど、もっとしっかりやらないといけない」といったようなダメだしを伝えると、「ダメ」だけが記憶に残ってしまったりします。それは本意ではない。ダメなことは「ダメです」と伝えつつ、どう欠点を埋めるかよりもどう伸ばしていくかに焦点を当てたプロモーションメッセージを伝えたいと思っています。

プロとプリのバランスをとる

ではダメだしが必要なときはどうするかというと、僕が心がけるのは、「しゃぶしゃぶ」です。熱湯でさっとくくらせるように、短く、完結に必要なことだけ伝えます。煮詰めると変質しちゃうこともあるので。

ちなみに、怒りながらのリクエストやニコニコしながらのダメだしはどうなのか、とかはわかりません。

それから、プリベンション焦点だって大事です。グチったりするとすっきりしますし、誰だって「あいつのここがダメだよね」ということくらいあります。ただ、もしそればかりになっているとしたら、そこに、「あいつのこういうとこダメだけどこういうとこいいよね」的なプロモーションメッセージが加わってもいいかなと思います。場の空気と反したりします。でもそうすることで組織やチームの雰囲気がちょっと変わるかもしれません。特に閉塞感のある組織やチームはダメだしメッセージが多くなる傾向があるようなので、「いつもとは違うこと」をしてみるのもいいでしょう。

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ってなことを意識してみると、結構自分が「ダメだし」していることに気づきました。わかっていたからって、自分の発言が100%プロモーションになるわけもなく、「あ〜、またやってしまった」とか思いながらも、そしてときにはそうする必要がありながら、やっています。どっちも使える、という状態がよいわけで、バランス良く、を目指したいものです。「ダメだししてるけど、リクエストもできてる」ということで。


参考にした論文、文献
・制御焦点理論を説明した、村山航のパワポ資料
 学生時代にとてもお世話になった資料です。
・ダニエル・カーネマン心理と経済を語る 友野典男監訳 楽工社
 将来の予測はだいたい当たらないということがよくわかります。
・ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則 バーバラ・フレドリクソン 日本実業出版社
 この書名は微妙ですが、昔から好きだった研究者の本です。英語の書名はPositivity。

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